あらすじ
古代超大陸――その南下なしに人類誕生は語れない。
「暑い沼」を意味する現在のアセニ・オドゥニには、かつて暖かい雨の降る鬱蒼とした森林が広がっていたが、五百万年前に海抜と緯度の両方が同時に下がり、渇いた赤道サバンナ地帯へと変わった。行き場を失った猿の群れは、枯れた木を降り、草原に二本足で立ち、草の根と獣の肉を手にし、我々人類の祖先となった。
やがてその土地が再び潤い、森を経て沼となるのに合わせ、進化した人類は大きく三つの道に分かれた。
一つは沼の北に遠ざかった草原の道。
一つは沼の南から西に抜ける森の道。
一つは沼の東の島々をたどる海の道。
草原の道を往く人々は馬の脚を借りて草原を駆け、砂漠から掘り出したとりどりの宝石をもって身を飾り、とりどりの色の瞳を自らの大陸の四方に向け、あらゆる隣人と交易を行った。
森の道を拓く人々は黒い砂の流れる河のほとりに巨大な鉄の鉱床を見いだし、その恵みを黒い腕に携えて黒い土を耕し、水路を引いた。道は西へ西へと、大地の裏までも繋がっていった。
海の道は最も人類の由来から遠い道である。しかし、腐らない櫂と千切れない帆綱が、骨太の人々を新しい土地へと導いた。大陸から東に伸びた二本の半島の先の、数限りない島々に人々は上陸した。
彼らに与えられた恵みは秘密であった。秘密そのものが恵みであり、土地がもたらす恵みもまた秘密とされた。芭蕉布を染める茜、藍、紅、紫。螺鈿に埋まる夜光貝と珊瑚。それらの生息地や繁殖法、工芸品の材料と製法。それらを知らない異国の客はその秘密に引き寄せられたが、潮になめされた金色の顔をした採集者や職人は皆、真珠を殻に含んだ貝のように口が固かった。
その採集者たちの一人に、ウラという貝拾いがいた。時代は最初の舟が海を渡って一万年。ところは南半球暖温帯に横たわる最大の半島「海中地」、彼らの言葉でシェティ。その中部北海岸の港町近郊にある漁村に彼女が生まれて十五年。この物語はそこから始まる。
【主な登場人物】
ウラ:南半球暖温帯シェティ半島北部の海女。北のバラ半島から移住した父と、地元民である母やその親類と暮らす。
ソン・ハン:北半球テニン大陸中央部オアシスの岩塩屋の息子。家業は弟に譲ろうと思っている。人と話すのが得意。
コ・ドゥジャ:テニン大陸西端の内海タウラザリに面する丘陵地帯の娘。金山で働く。将来の夢は喫茶店を開店くこと。
レン・ツーグー:テニン大陸東北ステップ地帯の医者の子。一緒に伝令をしていた愛馬を亡くした過去を持つ。
ヘカ=ナプ:テニンの東の海を渡った先のティカ・ラント山脈の翡翠鉱床を治める長者の娘。テニン製の動物図鑑が宝物。
バフワズ:テニン大陸南端の沼地アセニ・オドゥニの若者。テニンの大学から遺跡の調査に来た研究者と出会う。