あらすじ

私が婚約破棄されたのは、春の舞踏会の夜だった。 シャンデリアの光の下で、王太子は私の名を呼び、一言だけ言った。 「リーネ・フォルトナー。君との婚約は、今日をもって無かったことにする」 周囲が静まり返った。 私の指先が冷たくなる。 それだけが、その夜、私の体が示した唯一の反応だった。 王太子の隣には、義妹のエルヴィラが立っていた。 瞳を潤ませて、私を見上げている。 その目は「お姉様、お気の毒に」と言っていたが、口元が微かにゆるんでいた。 (……ああ、やっぱりそういうことか) 気づいていた。 半年前から、王太子の態度が変わっていたことも。 エルヴィラが社交界で「姉の話」をするときの、あの微妙な間の取り方も。 だから私は、泣かなかった。 背筋を伸ばして、一礼した。 「承知いたしました」 それだけ言って、私は舞踏会場を出た。 丸くなった背中に、誰かの囊き声が当たった気がした。 振り返らなかった。

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小説を読もう2026/03/14
  • 現在の作品婚約破棄の先にあったのは溺愛契約でした