あらすじ

大学進学を機に、海辺の町の古いアパートへ越してきた朝倉湊。 新しい暮らしにも、知らない土地にも、まだうまく馴染めないまま過ごす夜、壁一枚向こうの三〇二号室から、静かなピアノの音が聞こえてくる。 音はいつも綺麗だった。 けれど、必ず同じ場所で途切れた。 隣に住むのは、雨宮という少し年上の女性。 多くを語らず、眠れない夜にだけピアノを弾く彼女と、湊は雨の日の踊り場や夕暮れのベランダで、少しずつ言葉を交わすようになる。 名前も過去もほとんど知らないまま、それでも湊は、彼女の部屋にだけ長く止まり続けている時間の気配に惹かれていく。 やがて湊は知る。 彼女が毎夜たどっている旋律が、もう戻らない誰かの“続きを”探すためのものだということを。 何でもない会話。 すれ違うだけだったはずの距離。 触れそうで触れきれない静かな夜。 穏やかな日々のなかで、ふたりは喪失を消すことも、過去を取り戻すこともできないまま、少しずつ互いの孤独のそばへ近づいていく。 これは、叶わなかった願いを抱えたまま、 それでも明日へ滲むように生きていく、 海辺の町の、静かで痛い物語。

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小説を読もう2026/03/14
  • 現在の作品願いゆく寧日の彼方に