あらすじ
IT企業に勤める桐島悠(30歳)は、三年間交際してきた恋人・月城りんの夢を、誰よりも全力で支えてきた。
りんの夢は、Vtuberとしてデビューすること。悠は自身のITスキルをすべて注いだ。高性能な配信機材の選定と購入費用の立替、3Dトラッキングシステムの構築、サーバー環境の整備まで。残業で疲れ果てた夜も、貴重な休日も、りんの配信環境を作ることに費やした。
やがてりんは「夜凪りん」としてデビュー。清楚で一途な「彼氏いない系」キャラクターが刺さり、登録者数は半年で十万人を突破した。悠は誰よりも誇らしかった。
だがある夜、悠は知ってしまう。
りんが所属事務所「スターリンクプロ」の敏腕プロデューサー・橘誠一郎と、関係を持っていたことを。しかもそれは最近始まったことではなかった。りんが事務所に入った直後――つまり悠が最も全力でサポートしていた時期と、ほぼ完全に重なっていた。
さらに残酷だったのは、りんのDMに残っていた言葉だ。
「悠くんって機材とか技術は使えたんだけど、正直もう用は済んだかな(笑)。橘さんのほうが業界の力あるし全然いいし。てか最近邪魔くさくなってきた」
用は済んだ。
悠が三年かけて作り上げた配信環境の中で、りんは別の男に微笑んでいた。
橘は業界の権力を盾に、悠を静かに追い詰め始めた。取引先への根回し。悠の勤め先への圧力。どこにも逃げ場がなかった。
それでも悠は、牙を折らなかった。