あらすじ
追放された伯爵令嬢アルマダ=リスボンは、夜の橋の上で空を見上げた。
婚約破棄。
王の怒号。
父からの追放。
すべては「女のくせに絵を描くから」という理由だった。
だが彼女は、五歳の頃に思い出していた。
前世――美術大学で学んでいた記憶を。
光と影。遠近法。人体の構造。
この国には存在しない技法。
母レオノールは密かに告げた。
「わたくしの祖国、スペイラ帝国では違うわ。女性画家もいるのよ」
その言葉を胸に、アルマダは国境を越えた。
◆
帝国で彼女の才能は瞬く間に開花する。
国王の肖像を一目で描き上げ、威厳と慈愛を同時に表現した絵は宮廷を驚かせた。
支援を申し出たのは銀髪の皇女ペネロペ。
「素晴らしいですわ。芸術に性別など関係ございません」
その後、彼女はバレンシア公爵家に招かれ、嫡男ベニチオ=バレンシアの肖像を描く。
体が弱く儚げだった青年は、彼女の絵の中で堂々とした未来の当主として描かれた。
「君の絵は、希望をくれる」
次第に二人の距離は縮まり、やがて正式に婚約が整う。
追放された娘は、帝国公爵家の未来の夫人となったのだ。
◆
一方その頃、ポルトナ王国では混乱が広がっていた。
帝国は侮辱と外交問題を理由に貿易を停止。
さらに愚かな王は戦争を選び、国は滅びた。
前線で活躍したのは黒髪の将軍ロドリゲスと、若き剣聖フエルテ。
圧倒的戦力差で王国は崩壊。
そして戦争を煽ったボルド侯爵家も断罪される。
元婚約者フンシャル=ボルドは奴隷として鉱山送り。
かつて「女は家にいろ」と嘲った男は、泥にまみれ石を砕く身に落ちた。
社交界で彼を奪ったクリスティーナも同様に没落。
誰も彼らを憐れまない。
◆
帝都の陽光の下。
完成したベニチオの肖像の前で、アルマダは微笑む。
かつて否定された“女の絵”が、いまは帝国の誇りとなった。
彼女を追放した父も、嘲笑した王も、もういない。
残ったのは、彼女の描いた未来だけ。
筆を握るその手は、もう震えない。
「女に何がわかる」と言った者たちへの、最高のざまあだった。