あらすじ
大正末期、賑わう浅草。
甘味処の看板娘・小春と、不器用な軍医・神崎。
身分も性格も違う二人は、特製あんみつを通じて心を通わせ、一つの約束を交わす。
「春になったら、上野に桜を見に行こう」
しかし、その約束は関東大震災の炎に飲み込まれてしまった。
* * *
【登場人物】
・花村小春(はなむら こはる)
浅草・花村甘味処の看板娘、二十歳。天真爛漫で空気を読まない天然。困っている人を見ると体が勝手に動く。意地悪をされても恨まない。口癖は「まあ、なんとかなるよ!」。町の人々からは「太陽みたいな娘」と呼ばれる。明るさの裏に傷つきやすさを持ちながら、それを笑顔に変えて前へ進む強さを持つ。
・神崎恒一(かんざき こういち) 軍医。帝国陸軍中尉、二十八歳。華族・神崎子爵家の嫡男。真面目で不器用、女性慣れしていない。笑い方を忘れたような顔をしているが、小春との出会いで少しずつ変わっていく。部下の死を一人で抱え込み、眠れない夜を過ごしていた。震災で記憶を失う。
・鷹宮麗子(たかみや れいこ) 華族令嬢、二十三歳。神崎への想いから小春を敵視するが、震災後に深川の救護所で小春と並んで働くうちに変わっていく。打算でなく誠実に動くことを、小春から学ぶ。
・西園寺綾乃(さいおんじ あやの) 華族女学校教師。知的で冷静、感情を表に出すことを知らない。神崎への想いを「好き」と認めることができない。小春を「教養のない娘」と軽蔑しながらも、小春の「根拠のなくても信じ続ける力」に触れ、自分に欠けているものを見つける。
・千代(ちよ) 小春の祖母。花村甘味処の創業者。「食べ物は目でも食べるもの」「傷は次の人へのやさしさに変えるもの」など、小春の根っこをつくった。
・樋口大尉 神崎の先輩将校。豪快だが面倒見がよく、小春の強さを誰よりも早く認めた。