あらすじ

毎朝、誰より早く目を覚ます。 紅茶の銘柄も、席順も、領地の帳簿も。 十年間、すべてをひとりで回してきた。 夫は一度も感謝の言葉を口にしなかった。 義母には当然だと言われ続けた。 手首の結い糸は、とうに白く褪せていた。 この世界では、夫婦の絆が糸の色に映る。 鮮やかなら健全。褪せれば、壊れた証。 ロゼッタはその白い糸を長袖で隠し続けた。 ある朝、書き置き一枚を残して屋敷を出た。 向かった先は、祖母が仕立て屋を営んだ港町。 待っていたのは、潮風と寡黙な幼馴染の船乗り。 彼は何も聞かず、黙ってマントをかけた。 翌朝から毎日、玄関の前に薪が置かれている。 理由は一度も告げられない。 残された公爵家では朝食の紅茶すら出せない。 商人たちは一人、また一人と取引を断り始める。 崩れていくのは、屋敷だけではない。 祖母の鋏を手に取り、もう一度針を持つ。 自分の名前で、自分の仕事を始めるために。 白い糸を隠す日々は、もう終わった。 だが元夫は気づき始めている。 失ったものの正体に。 その答えを知るのは、海風だけだ。

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小説を読もう2026/03/12
  • 現在の作品十年尽くした妻が消えた朝、公爵家は紅茶の淹れ方すら分からなかった