あらすじ
「――でしょ!」
――ん?
「ちゃんと証拠撮ってるから! 逃げんな! 盗撮魔!」
昼下がりの近所のショッピングモール。買い物を済ませ、エスカレーター脇のベンチに腰を下ろして一息ついていた、そのときだった。突然、天井に突き刺さるような女の怒声が吹き抜けの空間に反響し、おれは反射的に声のほうへ顔を向けた。
そこにいたのは、中年の女だった。くすんだ色の上着に色褪せたスカートを合わせ、薄汚れた白い帽子を目深にかぶっている。手入れされていなさそうな黒髪を後ろで一つに束ね、腕を突き出すようにスマホを構え、若い主婦風の女に詰め寄っていた。
主婦風の女は通話中らしく、スマホを耳に当てたまま顔を強張らせ、視線を泳がせながら小走りでその場を離れていった。
取り残された地味な女は、その背中を睨みつけたまま立ち尽くし、怒りで肩を小刻みに震わせている。
盗撮――可能性がゼロとは言い切れないが、逃げていった女はごく普通で、むしろ穏やかそうに見えた。十中八九、あの女の勘違い……いや、妄想だろう。精神を病んでいる類の人間だ。こういうのは関わらないに越したことはない。
おれはそう結論づけ、視線を落として小さく息を吐いた。
「あなたもでしょ」
「えっ」