あらすじ

人魂を見たことがあります。 火の玉でもなく、UFOでもなく、なぜそれを人魂かと思ったかというと、それが歌っていたからです。 夏休み、田舎の従兄弟とカブトムシを採りに行ったときのことでした。 昼間仕掛けた罠を見に、僕らは真夜中に懐中電灯も持たず学校の裏手にある林の中に入っていきました。 ふと、暗闇から歌声が聞こえてきました。それは藤山一郎の「青い山脈」でした。昭和の話ですが、それでも随分古い歌です。 声の方を見ると、木々の間に明かりがゆらゆらと揺らめいていました。 なるほど従兄弟の兄さんが懐中電灯を持って来てくれたのだな。そのときはそう思いました。 それにしてはやけに光が赤いなとか、なんでそんな古臭い歌を歌っているのかな、などとも思いました。 兄さんを待つために僕と従兄弟はその場で立ち止まりました。 ところが明かりは、木々を照らしながら、僕らから見て左手、山の中へ入ってゆくのです。 兄さんはいったいどこにゆくのだろう。そう思っていると、従兄弟が「おーい、こっちだよ」と大きな声を出しました。 その瞬間、僕らが兄さんの持つ懐中電灯だと思っていた明かりが、すうっ、と浮き上がって、高い杉の木の影に消えていきました。 光が消えるとともに、青い山脈の歌声も遠ざかっていきました。大人の男性の声を機械風に加工したような、古い蓄音機から流れる子供の声のような、そんな不思議な声でした。 僕と従兄弟は大急ぎで家に帰って、たった今見聞きしたことを言葉足らずに訴えました。 「盆だからなぁ」 晩酌で顔を赤くした祖父はそう言いました。 光の消えていった方向には、たしかに墓地がありましたから、まぁ、そういうことなのでしょう。 さてそれでは、私が集め、あるいは集められに来た九十九話の奇妙な話をご覧ください。

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小説を読もう2026/03/31
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