あらすじ
神聖セントレア皇国、東部方面。戦乱に両親を奪われた九条義春は、七歳で孤児院に流れ着く。
院長の鳳慶忠は、穏やかな好々爺だった。毎朝庭で体操をして、子供たちに飯を分けて、泣いている子の背中を叩く。ただそれだけの老人に見えた。
だが軍の高官が訪ねてくるたび、院長の顔が変わった。義春にはその理由がわからなかった。
院長の教えを胸に、義春は十五歳で騎士団に入団する。最末端の二等騎士から始まり、戦場で仲間と共に死線をくぐり抜けながら、少しずつ階段を上っていく。二十五歳の夏、極限の戦闘の中で義春の血が目覚めた。複数の腕を同時に操る古代血族魔法――「千手ノ掌」の顕現だった。
そして翌年、戦線が孤児院のある地区まで迫る。義春は上官に何度も懇願し、ようやく許可を得て全力で駆けつける。だが間に合わなかった。院長は瓦礫の中で息絶え絶えに横たわっていた。
その死に際に受け取った言葉を、義春は生涯手放さなかった。
班長、支部長、地方本部長。昇進のたびに背負うものが増え、戦場が広くなり、失う仲間も増えていく。それでも義春は止まらなかった。東部で戦い、北部で戦い、皇国の果てで戦い続けた。
七十四歳。騎士団総長に就任した日、義春はかつて院長が立ったその場所に立った。
これは、孤児院育ちの一人の男が、七十五年かけて頂点に辿り着くまでのお話。