あらすじ
旅人は、名も知らぬ街にたどり着いた。
石畳は古び、家々の窓はどこかよそよそしく閉ざされている。人の気配はあるのに、視線だけがひどく遠い。まるで、この街そのものが何かを隠しているようだった。
宿に入ると、主人は彼の顔を見るなり、声を潜めて言った。
「森には近づくな」
それだけだった。
理由を尋ねても、返ってくるのは曖昧な沈黙ばかりだ。ただ一つ、酒場で耳にした噂だけが、妙に鮮明に残った。
——森の奥には、“蛇の少女”がいる。
それは呪いだとも、守り神だとも言われていた。姿を見た者は戻らない、とも。
旅人は笑った。
噂など、どの街にもある。だが、あの街の沈黙は、ただの迷信では説明がつかなかった。
夜が明ける前、彼は街を出た。
霧の立ちこめる森の奥へと、足を踏み入れる。
何かに導かれるように。
そしてそれが、引き返せない選択だということを、まだ知らなかった。