あらすじ
「死後の手続きです。あなたの人生で一番幸せだった記憶を一つ、天国への通行証として提出してください」
真っ白な空間。くたびれたスーツの男にそう告げられた僕は、自嘲気味に笑った。
27歳で病死。闘病に明け暮れ、金も未来も失い、最愛の恋人・陽子にさえ酷い嘘をついて追い払った。
僕の人生は、ただの燃えカスだ。幸せなんて、一滴も残っちゃいない。
ところが、男が僕の記憶から引っ張り出してきたのは、よりによって**「人生最悪の日」**の光景だった。
土砂降りの雨。ボロアパート。ずぶ濡れのまま、一人で啜った半額のハンバーグ弁当。
味がしなくて、惨めで、情けなくて。あんな記憶、一番いらない。
「……いいえ。あなたはあの時、泣きながらこう思ったはずです。――**『あぁ、腹が減ったな』**と」
絶望のどん底で、それでも僕の体は「明日」を求めていた。
彼女を傷つけてまで守りたかった「未来」があった。
泥水を啜るようなその記憶こそが、僕が僕として生きた、唯一の証明だったんだ。
これは、天国へ行くために「一番大切な痛み」を手放そうとした僕と、
その記憶の片隅で、今も僕を待ち続ける彼女との、
世界で一番不器用な、愛の答え合わせ。