あらすじ

再開発で街並みがすっかり変わった駅前で、古い木のベンチだけが十年前のまま残っている。朝倉麻衣は、元恋人・悠真と最後に会ったその場所へ、毎年同じ日、仕事帰りに立ち寄ってきた。あの日、遠くへ行く事情を抱えた悠真に、本当は「行かないで」と言いたかったのに、麻衣は強がって「私は平気、たぶんすぐ忘れる」と嘘をついてしまう。悠真は「来年もここで笑って会えたらいいな」と言い残し、そのまま姿を消した。以来、麻衣は前に進んだつもりでいながら、このベンチの前に来るたび二十四歳の自分へ引き戻されていた。 今年で終わりにしようと決めた春の夕方、麻衣の前にひとりの少女が現れ、古い封筒を差し出す。中に入っていたのは、十年前の悠真からの手紙だった。そこには、麻衣の「平気」が嘘だとわかっていたこと、自分もまた戻れないかもしれないと知っていたこと、そしてこの場所を「待ち続ける場所」ではなく「自分の時間へ戻るための場所」にしてほしいという願いが綴られていた。 変わらない場所に縛られていたはずの麻衣は、その場所があったからこそ、ようやく過去に別れを告げられる。止まっていた恋と時間が、静かに動き出す再生の物語。

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エブリスタ2026/03/29
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