あらすじ
「……飯が冷める」
29歳、廃業寸前の古道具屋店主・グレン。
かつて19歳で世界最深の機巧迷宮を単独攻略した伝説の男は、今や心を枯らして外縁部の店に引きこもり、誰かに飯を食わせることだけを繰り返していた。
ある日、店の前に転がり込んできたのが三人の少女だ。
借金まみれで愛想笑いをやめられない守銭奴の斥候。
魔力ゼロと言われながら古代機巧の「声」を聴ける銀髪の少女。
完璧主義のエリート女騎士なのに、作る飯が毎回地獄。
グレンはため息をついて、三人分のシチューを作った。
「その顔の方が本物だろ」
暴漢はパズルのように路地裏に収め、S級モンスターは「裏の空き地に移した」と事も無げに言う。本人は「仕事の癖が抜けないだけ」のつもりだが、世界基準では神話の奇跡だった。
少女たちの強固な仮面は、暴力的なまでに美味いシチューの前で甘やかに溶けていく。
しかし男には、誰にも言えない過去があった。
「エルナ」という名前と、10年間の沈黙と、手が震えるたびに呟く祈りが。
世界の危機も、権力者の陰謀も、どうでもいい。
「俺の晩飯の時間だけは、絶対に壊させない」
これは、明日を失った男が、居場所のない少女たちと食卓を守るために、二度目の本気を出す話。