あらすじ
六十一歳、無職。再就職もうまくいかず、朝の散歩だけが日課となっていた男。三月の終わり、いつもの道を外れて入り込んだ短い路地で、彼は異様な静寂と「時間の止まった家」に遭遇する。そこには、つい先ほどまで誰かがいた気配が残っていた。
やがて男は、自分の身体に起きる異変と、鞄に入っていた一通の履歴書に違和感を覚える。記された日付は三十年前。写真には、遺影のような自分の顔があった。
「変われない」のではない。
――もう、変わる時間が残されていないだけだと気づいたとき、男は思い出す。
自分は、あの日――帰っていないことを。