あらすじ
十五歳の秋、世界は崩壊し、少年はダンジョンへと墜ちた。
巨大倉庫店で購入したティラミスも、施設のみんなへの土産も、すべては深淵の闇へ消えた――。
絶望する少年・レンを救ったのは、元自衛官の男・剛田。
だが、剛田は優しく手を差し伸べたわけではない。
「死に損ないを助ける暇はねぇ」と一度は彼を見捨てたのだ。
しかし三ヶ月後、剛田が目にしたのは、安物のスクレーパー一本で魔物を狩り、泥臭いスライムを「美味く食うこと」に執着する狂った少年の姿だった。
「……気が変わった。泥を啜るな。最高の獲物を、最高の技術で食え」
それから十年。
師匠譲りの生存術と、料理人としての精密な魔力操作を融合させたレンは、独自の調理スキル【深層前・極】を完成させる。
舞台は、人類未踏のダンジョン第五十階層。
猛毒の魔物を指先一つで極上のネタに変える、深淵の板前――『アビス・マスター』。
今夜、その暖簾をくぐるのは、飢えた人か。それとも、身を解されたい魔物か。
――これは、地獄の底で「命の喜び」を握り続ける、一人の職人の物語。