あらすじ
2043年にサラブレッドが絶滅した世界。2055年の東京では、鋼鉄の筋肉と量子演算の神経網を持つ「からくり馬」による決闘競馬が、大衆を熱狂させていた。
「ダートの泥臭さ」を信条とするジョッキー・村上麗は、愛機レイスターと共に、圧倒的な「芝の様式美」を誇るエリート集団・柳生家三姉妹に挑む。計算され尽くした完璧な逃げを見せる長女ミカに対し、麗は脳が焼けるほどの過酷なニューラルリンク接続を強行し、常識外れの加速で砂塵を爆発させる。
その荒々しくも熱い走りは、柳生家の末妹・りんねの中に眠っていた「野生」を呼び覚ましてしまう。「お行儀の良いレースなんてクソ喰らえだ」――。りんねの覚醒は、鉄の規律を誇った柳生家に致命的な亀裂を入れ、無敗の女王ミカをも精神的崩壊へと追い込んでいく。
一方、麗の弟・義清もまた、泥育ちでありながら「芝の気品」を追い求め、ミカとの頂上決戦へ。鋼鉄の咆哮と飛び散る火花の中、人馬一体の限界を超えた先に待ち受けるのは、栄光か、それとも廃人への転落か。失われた「馬の魂」を巡る、2055年の砂塵と意地の物語が今、幕を開ける。