あらすじ
人類の生存が許されない『魔境』で、たった一人で育った剣士ジン。呼吸するように命のやり取りをしてきた彼の体は、危機を感知すると思考を介さず神速の抜刀術を放つ――本人すら気づかないほど自然に。
そんな彼が山崩れをきっかけに外の世界へ出て知ったのは、「リンゴは近づいても毒液を吐かない」「魚は死んだら本当に死ぬ」「夜空を見上げても爪が降ってこない」という衝撃の事実だった。
フカフカの座布団、初めての海鮮丼。彼の旅の目的は、どこまでもささやかだ。
一方、王都では一人の青年レオンが「覇気だけで魔物を粉砕した英雄」として祭り上げられていた。実態は、ジンが無意識に放った斬撃の手柄を押しつけられ続けているだけの一般人である。
最強なのに自分を最弱だと思い込んでいる剣士。
ただの一般人なのに最強の勇者に仕立て上げられた青年。
二人は同行しない。ただ偶然、すれ違い続ける。
片方が全力で逃げている背中を、もう片方は「癒やし」として微笑ましく見送っている。
すべての認識が、致命的にズレている。
そして誰も、真実に気づかない。
――情報の非対称性が暴走する、究極の勘違いすれ違い喜劇。