あらすじ
四月、御衣黄(ギョイコウ)の桜が静かに色づく頃、陽葵(はるき)は逝った。
彼が遺したのは、愛の言葉でも、一通の遺書でもなかった。それは、あまりにも無機質な「死亡時刻」の記録と、それまでの彼からは想像もできないような、冷たくて残酷な「裏切りの足跡」。長年連れ添った翠桜(みお)は、最愛の人の豹変に打ちひしがれ、彼を憎むことでその喪失感を埋めようとする。しかし、彼が遺した不自然な断片を辿るうち、翠桜は拭いきれない違和感に気づき始める。なぜ、彼はあの日、あんなにも冷徹な言葉を投げつけたのか。
なぜ、彼は最期まで「嫌われ者」であり続けなければならなかったのか。
暴かれていくのは、余命を宣告された彼が、自らの命を削って演じきった『献身的な虚偽』。
それは、残される彼女が悲しみに溺れることなく、自分の足で新しい春を歩き出せるようにと、彼が血を吐く思いで書き上げた、最高に不器用で、最高に優しい『ユーモア』だった。
「僕の嘘を、君の春で塗りつぶして――」
桜の下で再会する、二人の「真実」と切なすぎる愛の記録。