あらすじ
「お前には何の魅力も感じない。婚約は破棄する」
侯爵令嬢エレーヌは、卒業披露の夜会を前に、第二王子オーギュストからそう言い渡された。理由は、隣国から留学してきた伯爵令嬢に心を奪われたから。エレーヌが三年間、王子の成績管理から交友関係の火消しまで裏方を一手に引き受けてきたことなど、彼は知りもしない。
悔しくないと言えば嘘になる。だが泣くよりも先に、エレーヌの頭に浮かんだのはひとつの事実だった。
――私、婚約者だったせいで夜会のドレスも髪型もずっと「王子の隣にふさわしい地味さ」に制限されていたのでは?
解放された翌日、エレーヌは母譲りの赤髪を下ろし、封印していた祖母仕込みの社交術を全開にして、仮面舞踏会に乗り込んだ。身分を隠せる仮面の夜会で、誰にも遠慮する必要はない。
結果。
「――君の名前を教えてくれ。いや、教えてくれるまで俺はここを動かない」
一晩中エレーヌを追い回したのは、他でもないオーギュスト本人だった。