あらすじ

婚約破棄は、五分で終わった。 舞踏会の真ん中で王太子に切り捨てられたアネットの前に、ほとんど接点のなかった従兄が現れる。公爵家の嫡男レヴィ。彼は後見を名乗り出て、こう言った。 お前の再婚相手は俺が審査する。 実家にも王宮にも戻れないアネットにとって、その手を取る以外の選択肢はなかった。衣食住は完璧に整えられ、外出には護衛がつき、縁談はすべて義兄の一存で却下される。 感謝はしている。でも、このままでは一生この人の手の中だ。 アネットには前の世界で身につけた知識がある。産地と消費地を繋げば価値が生まれることを、体で覚えている。行商の仮登録を取り、商人に紛れて王都を脱出した。 けれど逃げた先の宿場町では、なぜか部屋が用意されていた。港町の宿には公爵家の紋章入りの手紙が届いた。辺境の温泉街に隠れたら、湯治客のふりをした義兄本人がいた。 追いかけてくるのに、捕まえない。 監視しているのに、商売は止めない。 逃走経路は十二通り想定していた。お前が選んだのは八番目だ。 この人は有能すぎて怖い。けれど怖いだけなら、とっくに振り切ることを諦めている。振り切れないのに足を止めないのは、この人の本心が分からないからだ。 義務だと思えば楽だった。後見人の責任感だと片づければ済んだ。なのにレヴィは、聞いてもいないのにこう答えた。 義務じゃない。 アネットが各地で人を繋ぎ、小さな行商の輪を広げていく間も、義兄の影はずっとそばにあった。そしてかつてアネットを捨てた王太子が、今さら返せと言い出した時、彼女は気づく。 自分の隣に、いつの間にか誰かが立っていることに。 なぜこの人は追い続けるのか。その答えはまだ、誰にも明かされていない。

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小説を読もう2026/03/27
  • 現在の作品逃げても逃げても義兄がいる。──それが、愛だった。