あらすじ
聖裁のスカイオフィス:偽りの海外赴任
いってらっしゃい、と
完璧な角度で手を振ったあの日
あなたは遠くへ行くふりをして
ただ、私の視界から消えただけだった
ドバイの空は
こんなにも近くて、安っぽいものだったかしら
ガラス越しの夜景に混じる
見覚えのある文字たちが
嘘の輪郭を、静かになぞる
あなたのいない部屋で
見つけた香りは、知らない女のもの
けれどその甘さは
すぐに腐る果実の匂いとよく似ていた
遠くへ行ったのではなく
低い場所へ堕ちただけ
笑い声は
私の足元で鳴っていたのね
—
祝福の席で
あなたはグラスを掲げていた
まるで世界を手に入れたような顔で
「ドバイは、どうだった?」
その一言で
時間は止まり
嘘だけが、取り残された
あなたの言葉は軽く
女の嘲りは浅く
けれど、それらすべては
私の掌の中で記録されていく
感情ではなく
事実で終わらせるために
—
翌朝
空はやけに澄んでいた
あなたが向かった先は
遠い国ではなく
逃げ場のない部屋
積み上げられた紙と
冷たい声と
逃げ遅れた沈黙
それが、あなたの旅の終着点
—
裏切りは
いつも連れてきた者に裏切られる
手を取り合っていたはずの影は
光の前でほどけていく
崩れるのは一瞬
壊れるのは永遠
—
すべてを失ったあとで
あなたは初めて知るのでしょう
嘘は
守ってくれるものではなく
奪い尽くすものだと
—
そして私は
高い場所で風を受ける
見渡す街は
どこまでも正直で
どこにも逃げ場はない
だから、美しい
—
いってらっしゃい、と
もう一度、心の中で言う
今度こそ
あなたは本当に遠くへ行く
私の人生から
完全に
—
ここにある空は
偽物じゃない
ただ、まっすぐに広がっているだけ
そして私は
その下で
もう、何も疑わない