あらすじ
城ヶ崎姫花には、ふたつの顔がある。
ひとつは、誰もが認める整った顔立ち。もうひとつは、告白してきた男子に一言も返さず立ち去るという、冷たすぎる塩対応。
いつしか彼女は「氷姫」と呼ばれるようになった。女子からは妬みと嫉妬によるいじめを受け、男子からは距離を置かれ、気づけば学校という場所で完全に孤立していた。それでも姫花は平然としている。心の中で「かまわない」と三回唱えれば、たいていのことは乗り越えられる。そう自分に言い聞かせながら、今日も一人で昼食を食べ、一人で下校する。それが彼女の日常だった。
そんな姫花の前に、高校入学と同時に現れたのが、幼馴染の齋藤海斗だ。
腹立たしいほど顔が良く、ニコニコとしたチャラ男で、街ではヤンキーとして名が通っている。学校内には女子のファンクラブまで存在する、そんな男が、まるで三年間の空白などなかったかのように、ズカズカと姫花の領域へ踏み込んでくる。
二人がここまで疎遠になったのには、理由があった。中学一年の夏祭りの夜、路地裏で男に絡まれた姫花を助けた海斗。その時に見せた、今まで知らなかった海斗の顔。姫花はそれが怖くて、気まずくて、そのまま逃げるように距離を置いた。三年間、ずっと。
しかし海斗は、そんな過去など意に介さない様子で姫花の隣に居座り続ける。孤独な昼食に当然のように現れ、くだらない話をして、嫌がらせを遠くから見守って、雨の日には傘を傾けて濡れる。「迷惑じゃない」と言い切る声は、いつも妙に真っすぐだった。
じわじわと、何かが溶けていく。
ずっと唱え続けてきた「かまわない」という呪文が、いつの間にか口から出なくなっていた。心臓が、海斗のそばでだけ、うるさく鳴るようになっていた。
氷姫と呼ばれた姫花が、自分の中に隠れていた気持ちに、そっと気づくまでの物語。