あらすじ

ああ、遠くなる昭和の思い出たち 淡い恋心・・・信子そして娘たち 待ちに待った10月1日。今日から穂波ちゃんと茜さんがセブンミュージックに入社する日だ。 芸能プロ本社にて手続きを行なう。付き添うのは信子と優太ママだ。手続きを終え各所に挨拶回りだ。どの部署でも温かい歓迎を受け2人とも嬉しそうだった。 今日から穂波ちゃんはわが家で過ごす。相部屋だが同室の優子も心優しい一つ上のお姉さんだ。一方の茜さんはマネージャーさんたちが住んでいる同じアパートの一室で過ごすことになる。前日に2人とも荷物を運び入れていた。 茜さんは荷物の整理があるだろうと優太ママが手伝うことに。信子は穂波ちゃんの転入手続きの為に市立中学校へ一緒に出向く。中学校の職員室は大騒ぎとなった。どうやら同姓同名の子が転入して来ると先生方は思われていた様だ。先生方に笑顔で迎えられる穂波ちゃん。さっそく教科書と時間割を貰い、次に新しい制服を購入する為に指定店へ向かう。ここでも穂波ちゃんの登場に対応してくださったご夫婦は大変驚かれていた。 家に戻ると穂波ちゃんは部屋で荷物を解いていく。 てきぱきとした動作が何となく里穂と似ていると思う信子だった。 お昼になると優太ママに連絡、4人でお昼ご飯を食べに行くこととなった。白ワゴン車で優太ママと茜さんを迎えにアパートへ。オートロックに守られたアパートは安心して暮らす事が出来ると茜さんは大喜びだ。 そんな茜さんの荷物の整理を中断してのお昼ご飯だ。 4人で何時もの回転寿司屋さんへ。テーブル席へ案内されると周りのお客さんたちが「あの子「山瀬穂波」にそっくりと言ってこちらを凝視していた。だが4人はそれに臆する事も無くお寿司を食べ始めた為、次第に『他人の空似か…。』という雰囲気が店内に流れて行った。 話をしていると穂波ちゃんと茜さんは青森生まれで同郷であるという。同室の優子は九州出身だというと「上手く会話が出来るかなあ?」と笑う穂波ちゃんだった。「いつか時間を作ってご両親に会いに行くわね。」という信子に少し驚き「いえ、とんでもないです。」と慌てた様子の穂波ちゃん。 詳しく尋ねていくと実家はリンゴ農家ということで恥ずかしいという思いがあるようだ。その事に優太ママが静かに言った。「一生懸命働く人に職業の差なんて関係ないのよ。色んな職業で世の中成り立っているの。だから一生懸命な人を職業で区別や差別をしてはダメ。ご実家の稼業で負い目を感じる必要はないわ。」そう言うと穂波ちゃんは黙って頷いていた。 「ごめん。ちょっとマジになり過ぎちゃった。」そう言って舌を出して笑う優太ママ。「直ぐ熱くなるのは昔と同じね。」と言って信子も笑った。すると「ええーっ!そうなんですかあ?」と声を揃える2人。そのタイミングの良さに4人で大笑いするのだった。 そんな時、信子の携帯が鳴った。相手は車屋さんだった。穂波ちゃんと茜さんの移動用のワゴン車が届いたとのことだ。さっそく車屋さんへ向かう4人。 車中で、地方へ出向くことが多い穂波ちゃん用に7人乗りワゴン車を用意していたことを説明する信子。今まで電車やタクシーを使うことが多かった2人は大感激だった。そして更に濃紺のワゴン車は後部窓がスモークガラスとなっておりプライバシーもばっちり保護されていた。そして極めつけはナンバープレートだった。「・473」というナンバーはフォー、な、みという語呂合わせで信子に頼まれた車屋さんが獲ってくれたものだった。これらにもう大感激の穂波ちゃんと茜さん。通常は茜さんのアパートの駐車場に留めて置ける様に手続きも澄んでいた。 さっそく茜さんの運転で大型スーパーへ2台のワゴン車を連ねて向かう。今日の夕食は2人の歓迎パーティーを兼ねるということでの買い出しだった。 買い物の途中で優太ママが信子に言った。「信ちゃん!お迎えの時間だよ!」 後を優太ママに任せて白ワゴン車で小学校へ向かう信子を見送る3人。2人の好物を聞きながらの賑やかな買い物となった。 小学校に着くと加奈は運動会の練習中だった。そっと運動場の方へ向かう信子。校舎の陰から様子を窺う。 どうやらフォークダンスの練習中の様だ。男女が動きながら相手を替えていく場面でそれは起こった。 加奈とペアになっていた男の子がずっと加奈の手を握ったまま離さなかったのだ。練習は中断してしまった。体育の先生が次の女の子の元へ行く様に注意をしているのだがなかなか言う事を聞いてくれない様だ。 すると加奈の声が聞こえてきた。「きちんと動かないと列が乱れちゃうでしょ。このままじゃダメだよ。フォークダンスにならないんだから。」この加奈の一言で男の子は「ごめん・・・。」と言って加奈の手から自分の手を離して謝っていた。周りの子たちは「加奈ちゃん、井上先生みたい!」と言って笑っていたが当の男の子も釣られて一緒になって笑っていた。これを見て信子は思った。『加奈ってやっぱり美穂以上だわあ!』 車に戻って待っていると歌穂が走って帰って来た。 「お帰り。」と声を掛けると息を弾ませながら「ただいま!」と車に乗り込む。そして直ぐにノートをランドセルから取り出し何やら書き込み始めた。その様子をそっとルームミラー越しに見守る信子。よく詩を創る歌穂は何やら閃いたらしい。 そうこうしている間に加奈がにこにこ顔で帰って来た。「今日も何か良い事があったの?」と信子が尋ねると今日あったたくさんのことを話してくれた。一通り話し終えると水筒のお茶を飲みながら歌穂のノートを横目でチラリ。そしてにっこりと微笑んだ。 「遅くなっちゃったあ!」そう言いながら最後に乗り込んできたのは里穂と健君だ。「おかえりなさい!」乗っていた3人が次々に声を掛ける。「ねえ、穂波ちゃん家に居る?」里穂はそれが気がかりだった様だ。 何時も通り健君を自宅まで送り届けてからわが家へ戻る。駆け込む里穂。「ただいまあーっ!」 廊下まで出て来て迎えてくれたのは待ち望んでいた穂波ちゃんだった。「うわあーっ!嬉しいっ!」2人でそう言いながら抱き合ってくるくる回る。その様子を見て笑っている歌穂と加奈。さっそく居合わせた5人でおやつタイムだ。今日のおやつはナッツの入ったクッキーだ。賑やかなおやつタイムにびっくりの穂波ちゃん。今まで一人か茜さんとでしか食事やお茶をしたことが無かった穂波ちゃんにとってまるで異次元に居る様に感じる時間だった。しかしまだ音大組3人が帰って来ておらず本当の驚きは夕飯の時までお預けとなるのだった。 「穂波ちゃん、練習しようよ。」里穂はそう言って穂波ちゃんをピアノルームへ誘った。歌穂と加奈は地下のレッスン室へ。夕刻までの間の自主練習だ。 陽も暮れた頃、音大組3人とマネージャーさん4人が帰って来て一気に家の中は賑やかになった。改めてご挨拶をする穂波ちゃんと茜さん。そして2人の挨拶の後、加奈の新CMオーディションの合格が発表された。 皆に祝福される加奈。とても嬉しそうに笑っていた。そんな加奈の口元から白いものが落ちた。皆がびっくりする中、大人の皆さんは大笑いだ。そう、加奈の歯がまた抜けたのだった。それを知って娘たちは大爆笑だ。張本人の加奈も一緒に大笑いだった。 少し経って車が停まる音がした。ドアを開け閉めする音が何時もの車と違う事に気付く美穂と歌穂。インターホンが鳴る。モニターには瞳が映っていた。どうやら穂波ちゃんが来るということで学校帰りにお抱えの車で駆けつけてくれた様だ。伊藤さんがわが家の立体駐車場を上げて、瞳さんが乗ってきた車を格納して貰う。遠慮する運転手さんを美穂と2人で誘って宴の場へ案内する。 程なくして遥香が到着。急ぎ足でインターホンを鳴らすと歌穂が応対する。「もう美穂お姉ちゃんが玄関に向かいましたあ!」 セブンミュージックの面々が全員揃っての歓迎会のスタートとなった。 加奈は土日に跨っての天然水のCM撮影に臨む。若菜さんが同行して集合場所へ車で乗り付ける。 集合場所からはロケバス数台に分乗して撮影地の他県の山間部へと向かう。ロケバス内でスタッフさんらと撮影の打ち合わせを行なう。その内容を次々と頭の中に入れていく加奈。そしてその傍らで速記にてメモを取る若菜さん。そんな2人の真摯な姿勢に脱帽するスタッフさんたちだった。 お昼にはお弁当が持ち込まれロケバスに揺られながら美味しく頂く。監督以下皆同じお弁当だという。皆で“同じ釜の飯を食おうじゃないか!”という監督さんの思いからだという。 揺れに身を委ねながら上手な箸使いでお弁当を頂く小学1年生に乗り合わせた皆さん全員が感心するのだった。ただ、奈良漬けだけは若菜さんがパクリと食べて手助けをしていた。 山の中腹にある温泉宿に別れての宿泊だ。女性だけの宿に1部屋設けて頂き荷解きをして若菜さんが用意してくれた登山服に着替える。ここから1時間ほど登った所が撮影地だという。加奈も元気に出発する。クマよけの鈴をチリンチリンと鳴らしながら登って行くと滝の音が聞こえてきた。登山道から沢の方へ降りて行くとそこは滝壺の近くだ。この滝壺を遠目のバックにしての撮影だ。セリフなどは後入れするという事で映像のみの撮影だ。1回のリハを見て監督さんは「本番!」と声を掛ける。こうしてNGなしで次々とシーンの撮影を終えていく加奈。これにはスタッフさんたちも唖然としていた。スタッフさんの一人が監督さんに尋ねた。「撮り直しとかはなさらなくて大丈夫ですか?」 すると監督さんは言った。「すべて僕の考えている通りの演技だよ。こんな子は初めてだ。数年前に亡くなったあの大女優の再来かも知れない・・・と僕は思っているよ。」そう言ってにやりと笑って見せる監督さんだった。この話はあっという間にスタッフさんたちの間に広まって行った。 こうして全ての撮影をほぼNG無しで演じ切った加奈。「凄い!3時間で終わってしまった!」そう言って意気揚々と機材の片付けをするスタッフさんたち。 加奈も再び登山服に着替えて下山の準備だ。薄暗くなってきた登山道を数名のスッタフさんたちがライトで明るく照らしてくださった。お陰様で安全に下山する事が出来、皆さん方にお礼を言って宿へ向かう。 夕食前に温泉でゆっくりとくつろぐ加奈と若菜さん。 「ねえ、熊さんが襲ってきたらどうしよう?」と言う加奈に「“正拳突き”かなあ。」と豪快に笑う若菜さんだった。 お風呂を上がると宴会場へ案内される。着いたその日に打ち上げ会とは考えていなかった宿の方々は準備で大忙しだったようだ。 そんな中、打ち上げ会がスタートする。助監督さんの司会で監督さんの挨拶。そして主演女優の加奈の挨拶となった。すると小学生とは思えない見事な挨拶を披露する加奈。これに皆さんもまたまたびっくりだった。 監督さんはもろ手を挙げて大喜びだ。スタッフさんたちもこんな監督さんを見るのは初めてだった。 若菜さんの隣に座っていた女性ディレクターさんが若菜さんに話しかける。 「もう、監督さんは加奈ちゃんにメロメロなんです!」そう言って目配せして微笑んだ。 一方の加奈はパーティーへの出席はしたことがあったがこの様な酒宴の席は初めてだった。次第に酔っていく大人たちを興味深そうに眺めていた。 すると加奈の前に監督さんがジュースを持って現れた。そしてきちんと正座をして「加奈ちゃん!今日は朝早くからお疲れさま。そしてありがとう。」と言ってジュースを加奈の持つコップに注いでくださった。「こちらこそありがとうございました。」そう言ってジュースを頂く加奈。コップをお膳に置いた右手にそっとお銚子を渡しお猪口を監督さんに渡す若菜さん。監督さんは上機嫌で加奈がお酌してくれたお酒をぐっと飲みほしてくださった。「久しぶりに上手いお酒が飲めたよ。また今度もお願いするね。」そう言ってにこにこ顔で自席へ戻って行かれた。 宴会も終わりに近づくと手を着けられていない“ヤマメの塩焼き”が大量に残されていた。それを見た加奈が若菜さんに言った。 「このお魚さんたち食べて貰えなくて可哀そう。連れて帰れないかなあ?」この加奈の一言に少しお酒に酔った女性ディレクターさんは「何て優しい子なの!」と大号泣するのだった。 宿の方々の計らいで“ヤマメの塩焼き”は真空パックされて加奈のお土産となった。 翌早朝、鳥さんたちの声で目を覚ました加奈。パッと窓のカーテンを開けると目の前の手すりにお猿さんが座っている。いきなり目が合って双方ともびっくり!お猿さんは慌てて退散していった。 一人でクスッと笑いながら洗面所で顔を洗い歯を磨く。そして携帯で美穂にメールを送る。『お土産はヤマメ20匹だよ!』さっそく美穂から返信が。『はあっ?』 どうやら美穂と歌穂は朝から結婚式場の仕事の様だ。 他の皆も朝から出かけていく様子だ。 宿の食堂で朝食を頂く。山間部定番の山菜のてんぷらと鮒の甘露煮、浅漬けと生卵、海苔とお味噌汁だ。 卵かけご飯を海苔で巻いて美味しく頂く加奈。高原ホテルとはまた違った和風の朝食も良いものだと思う加奈だった。配膳の方に「お味噌汁のお味噌は売っていますか?」と尋ねる加奈。小学生からの意外な問いに少し困惑しながらも売店のお味噌を紹介して頂いた。 チェックアウトを済ませて貰い出発までの間に売店へ。さっそくお目当てのお味噌を仕入れる加奈。それは「山の息吹」という銘柄のお味噌だった。次にヴァイオリンケースに付けるマスコットを見て回る。しかしここで若菜さんが待ったをかける。「加奈ちゃん!もう3個も付いているでしょ?」そういわれて「あっ!そうかあ!」と残念そうな加奈。そして頂いたクマ除けの鈴と同じものを姉たち全員のお土産とするのだった。 こうして加奈のCM撮影旅行は無事終了した。 翌週の土曜日、今日は早朝からの「涙の海峡(クラッシックバージョン)」の収録に挑む優太君、歌穂、加奈、そしてピアノ伴奏の美穂の4人。 通い慣れて来た収録スタジオに朝7時に入る4人。スタッフさんたちに早朝のお仕事へのお礼を言ってスタジオに入る。音響室ではレコード会社のスタッフさんたちも待機してくださっていた。そんな皆さん方が見守る中、音合わせを兼ねたテイク1の演奏が始まる。レコード会社のスタッフさんたちが驚いたのはいきなりの録音モードだったからだ。 「まだ音合わせですよね?」女性ディレクターさんが驚く。「はい。セブンミュージックの皆さんは何時も本気モードで演奏されますから。上手くいけばテイク1で終了です。」録音スタジオのチーフプロデューサーさんにそう言われて驚きの表情を見せるレコード会社の皆さん方。よく考えれば美穂たちにはマネージャーさん3人が付き添っているだけだ。『責任者も居ないし、しかも子供だけ?』そう思う皆さんを他所にテイク1のキューが出される。 美穂のピアノが序奏を奏でる。そして歌穂の中音と優太君の低音部が続き加奈の高音部がスタートする。 その見事な4人の演奏に思わず聴き入る皆さんたち。 『これが音合わせだって言うの?』 テイク1の演奏が終わると今度は歌穂と美穂のコンビによる演奏の収録に移る。一旦引き上げて来た4人と一緒に録音した音を皆で確認する。4人は頷きながらお互いを見つめ合って微笑むのだった。 「何も言う事はありません。」レコード会社の女性ディレクターさんは静かな口調でそう言って微笑んだ。 「テイク2のコンビならこちらも1発オーケーですかね。」そう言いながらキューを出すディレクターさん。美穂のピアノの序奏に歌穂が続く。プロならではのヴァイオリンの音に今更ながら驚くレコード会社の皆さん方。小学3年生と言えどもやはりプロとしての実力を見せつける歌穂の演奏に酔いしれてしまう。 結局、2回の演奏で収録を終えた4人。 皆さんにお礼を言って、3人のマネージャーさんの車に分散して次の仕事場へ向かうのだった。 結婚式場へ向かう車中で演奏の打ち合わせを行う美穂と歌穂。その中で午前の新郎新婦のお2人が歌穂の大ファンと言う事でお色直しの前にミニコンサートをお願いされていたのだ。 「実はリクエストが届いているの。『チゴイネルワイゼン』をぜひ入れて欲しいと言う事よ。」そんな美穂の言葉に少し躊躇する歌穂。 「うーん!『チゴイネルワイゼン』は加奈に譲ってしまったからなあ・・・。」という歌穂に美穂が応える。 「何言っているのよ、歌穂。クラッシックは誰のものでもないわ。加奈を可愛がる気持ちは分かるけどプロの歌穂は常に加奈の前を歩いていなくてはいけないのよ。だって加奈は何時もあなたを目標にしているから。だから加奈以上の『チゴイネルワイゼン』を弾いて魅せて頂戴。」そんな美穂の言葉に思わず涙を浮かべて頷く歌穂。 「思い切って『ロマンス第2部へ長調』『チャルダッシュ』『チゴイネルワイゼン』でいこうね。」そう言って歌穂の涙を拭う美穂。そんな2人の様子をルームミラー越しに見ていた伊藤さんも目頭を熱くするのだった。 結婚式場に着くとサブマネージャーさんが信子と加奈と優子が来ていることを教えてくださった。それに驚く美穂と歌穂。控室で披露宴の打ち合わせをしているとその3人が訪ねて来てくれた。 「ママ、どうしたの?」不思議そうな2人に信子が答えた。 「2人共土日のオーダーがあるから他の仕事が受け切れないのよ。だからご指名以外の演奏は優子と加奈にお願いして美穂と歌穂のスケジュールを確保したいなって思ったの。4人でアットランダムにペアを組んで対応出来ればと思ってね。そうすれば他のアーチストさんの出演依頼にもお応えすることが出来るのよ。」そう言って4人を見つめる信子。 「ありがとうママ。」真っ先にお礼を言ったのは歌穂だった。大勢のヴァイオリニストの皆さんから共演依頼を頂いていたのだがなかなか実現出来ずにいたからだ。 こうして信子ら3人の見学者が2人の式次第に合わせた演奏を見学するのだった。 招待客の入場に合わせて『愛の挨拶』でお迎えをする2人。小中学生のコンビによる演奏にほとんどの方が驚かれるのだった。生演奏での披露宴などそう滅多にお目にかかれるものではない。席に着かれても皆さん2人の方をずっと見守り続けられていた。招待客の皆様が席に着かれても暫くは曲が流れていく。 曲が終わると司会者のご挨拶だ。結婚披露宴の開催と本日の演奏担当者の紹介が行われる。2人の経歴が紹介される度に披露宴会場には拍手が起こった。そんな様子を食い入るように見つめる優子。1か月間歌穂の代役を務めた事のある加奈も改めてという気持ちからで優子と同様にモニターをじっと見つめていた。 披露宴は式次第通りに進んで行きいよいよ新郎新婦のリクエストによる歌穂のミニリサイタルの時間となった。改めて司会者さんから紹介される2人に出席者の皆さんから拍手が起こる。しかしそれでも小学3年生のヴァイオリンのリサイタルとなると『大丈夫だろうか?』という不安もお持ちの様だ。 最初の曲は『ロマンス第2番へ長調』だ。この歌穂の演奏に驚いたのは会場の皆さんだけではなかった。信子、優子と加奈、そして会場に居合わせたマネージャーさんを始めとするスタッフの皆さん方も同様だった。子供と言ってもやはりプロ、歌穂の奥深いヴァイオリンの音が心に響いてくる。そして曲の切なさが聴く人の心に訴えかけてくるのだ。それに沿った美穂のピアノ演奏にも歌穂の演奏と相通じる魔力が潜んでいる様だった。その切なさに初恋を思い返す皆さんも多かったのだろう。そして新郎新婦の結婚までの馴れ初めを知る方々には特に心に響いたようだ。 演奏が終わると美穂と歌穂がマイクを持ってお祝いのメッセージとミニリサイタルへのお礼を述べる。そして曲紹介だ。2曲目は『チャルダッシュ』。美穂のピアノが静かなメロディーを奏でて曲は始まる。それに続いて歌穂のヴァイオリンが静かに続く。その音は澄んでいるもののしっかりとした力強さをも披露宴会場に解き放って行く。すると突然加奈が涙を流し始めた。そんな加奈を信子が抱き寄せ自分のハンカチでその涙をそっと拭いてくれた。 「加奈、良い先生につけて良かったわね。」ただそれだけ言って加奈を抱き締める信子。加奈は信子の腕の中で何度も頷いていた。一方の優子も感動で泣き出しそうだった。『歌穂!さすがプロだわ!』しかもそのプロの演奏にも引けを取らない美穂の伴奏にも感動していたのだ。『ただ上手なだけではないのね。私も見習わなくては!』 歌穂の演奏は『チゴイネルワイゼン』ㇸと移る。美穂の力強いピアノが鳴り響き歌穂のこれまた力強いヴァイオリンの音が鳴り響く。そして繰り広げられる超絶技法の数々。さすがプロ!当たり前のように難なく演奏していく歌穂。その演奏に酔いしれる披露宴会場の皆さんたち。新郎新婦もうっとりとした表情を浮かべて聴き入ってくださっていた。 演奏が終わると割れんばかりの拍手が鳴り止まなかった。 日曜日は秋晴れだった。今日は小学校の運動会。 美穂と歌穂は早起きしてお弁当を作る。今日は加奈のご両親と信子の両親がはるばる応援に駆けつけてくださる。優太ママと優太君は楽団の演奏会がある為、穂波ちゃんはテレビ出演の為に残念ながら応援には来れなかった。しかも美穂と歌穂は結婚式場の仕事の為13時位には小学校を出なければならなかった。 信子と優子がメインとなって里穂、歌穂、加奈の応援をするのだった。特に小学生として初めての運動会に大張り切りの加奈。朝からテンションが高い。しかも全学年チームによるリレーに里穂とともに選ばれたのだった。自分では余り自信はないという加奈だがクラスメイトからの絶大な応援が少しプレッシャーの様だ。 父母席にはマネージャーの伊藤さん、若菜さん、香澄さんの3名が応援に駆けつけてくださり総勢10名の大応援団と化していた。特に男性3人はビデオカメラを持参し思い思いに娘たちの雄姿を収めるべく大張り切りだ。 そんな中、1年生のフォークダンスが始まる。音楽に合わせて踊る余りの可愛さにあちらこちらから「まあ!可愛いこと!」といった声が上がるのだった。 練習ではトラブルがあった加奈の居る1組はしっかりと楽しそうに踊っていた。皆笑顔で本当に楽しそうだ。そんな子供たちの笑顔を収めようと最近流行り出したビデオカメラを持ったお父さんたちが右往左往と大忙しだ。その様子をやや呆れ顔で見ている美穂と優子。そんな2人が周りの違和感に気付く。周囲にはやけに多くのカメラやビデオカメラを携えた人が居るのだ。どうやら入場行進などの際に父母席に向かって笑顔で手を振る娘3人のショットを狙っている様だ。有名人だからこその有名税と言ったところであろうか。 毎年恒例となった1年生の玉入れ。それぞれのクラス毎にお手玉をかごに入れるという微笑ましい競技だ。 歌穂の頭にお手玉がポコンと当たった事が思い出される信子と美穂。『加奈はどうだろうか?』と期待して協議を見守る。加奈のご両親は初めて見る小学生としての加奈の姿にやや興奮気味だ。 各クラスがそれぞれ所定の位置に着く。両手にお手玉を持ってのスタンバイだ。突然加奈の声が運動場に響いた。「1組いーっ!いくよおーっ!」 「おおーっ!」とそれに応えるクラスメイトたち。 この光景に拍手が起こる運動場内。その加奈の統率力を初めて見るご両親の驚きの表情に「加奈ちゃんって何時もあんな感じで皆を引っ張っているみたいですよ。」と信子が話すと何度も頷くご両親。 「がんばれ加奈ちゃーん!」頑張れ1組!」とマネージャーさんたちも声援を送る。すると両手を大きく挙げて声援にこたえる加奈。もうそれは全てのカメラのシャッターチャンスだった。その夥しいフラッシュに驚く1年生たち。 「大丈夫だよーっ!皆がカメラで応援してくれているよーっ!」と言って1年生全員を落ち着かせる加奈。そんな加奈を絶賛する声があちらこちらから上がる。 「うふふ。さすが加奈だわ!」美穂と優子はそう言って微笑んで顔を見合わせた。 ピストルの音が秋晴れの空に響く。玉入れのスタートだ。小さな1年生たちが一生懸命高く掲げられた丸い籠に向けて紅白のお手玉を投げ入れる姿はとても可愛らしく運動場内の皆を笑顔にさせる魔力を醸し出していた。加奈も機敏な動きで次々に籠の中にお手玉を入れていく。そんな加奈の姿をしっかりとビデオカメラに収めていく男性3人。いや、他の皆さん

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カクヨム2026/03/26
  • 現在の作品ああ!昭和は遠くなりにけり!!第24巻