あらすじ

時は大正。 逓信省の事務官・峰岸文は、届くべき手紙が届かない不正を見つけ、見て見ぬふりができなかったために左遷される。 配属先は汽車の終点よりさらに山奥、地図にも載らないような集落「鶺鴒沢」の郵便分室。 たった一人の配達員として赴任した文を待っていたのは、大自然という名のど田舎と、棚の奥に押し込まれた届け先不明の手紙束だった。 「大楠殿」「淵ノ主様」「七番尾根ノ方々」「山ノ奥様」——宛先はどれも人名ではない。前任者たちが匙を投げた奇妙な手紙。 けれど文には、幼い頃から隠してきた秘密があった。空気に滲む色が、見えてしまうのだ。 五十年間返事のない相手に手紙を書き続ける老婆。 兄を山に喪い、一人で神社を守る不器用な神主。 百年前に交わされ、綻びかけた「山の約束」。そして、母が逃げた山の記憶——。 届かない手紙を届けるたびに、人と山の間に張り巡らされた「約束」の全貌が浮かび上がっていく。 見えないふりは、もうしない。届けるべきものは、届ける。 これは左遷された郵便配達員が、手紙で世界を繕い直す物語。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/03/26
  • 現在の作品せきれい沢おとずれ帖 汽車すら来ない村に左遷されたら、手紙の届け先が人間ではありませんでした