あらすじ

父の遺した短い手紙に導かれ、相沢湊は瀬戸内の小さな港町へ降り立つ。JR西日本の列車に揺られ、島影のあわいを縫うように進む旅路の果てにあったのは、きらめく海と、静けさの奥に古い時間をたたえた町だった。潮の匂いのする駅、坂の途中の宿、船を待つ人々の背中。何もかもが穏やかでありながら、その穏やかさは、失われたものを包み隠す薄い膜のようでもあった。 宿を営む三崎汐里との出会いをきっかけに、湊は父がかつてこの地を繰り返し訪れ、時刻表から消えた「潮待ち浜」という名の駅を追っていたことを知る。海と鉄道に導かれながら、彼は父の沈黙の理由と、この土地に積もった記憶の層へと足を踏み入れていく。せとうちの美しさは、ただ明るく開かれているのではない。光がやわらかく満ちるほど、その底には言葉にならなかった別れや、帰ることのできなかった時間が静かに沈んでいる。 これは、旅の物語であると同時に、喪失の手ざわりをたどりなおす物語でもある。海へひらく線路の先で湊が見つけるのは、父の残した過去か、それとも自分自身の空白なのか。瀬戸内の風景に抱かれながら、彼の中で止まっていた時間が、ゆっくりと動き始める。

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小説を読もう2026/03/26
  • 現在の作品潮待ちのレール