あらすじ
婚約破棄され、実家を追い出された没落令嬢エリーゼ。
残ったのはお茶を淹れる腕と、清掃への異常な執念だけ。
王宮の遺物管理室で働く地味な日々は、でも嫌いじゃなかった。老学者たちに可愛がられな
がら自分だけの清掃液を開発し、初めて自分の手で作った居場所だった。
ところがある日、管理室でドアストッパーにされていた塊を磨いたら、数十年間行方不明だ
った国宝だった。
一夜にして国家の英雄。莫大な報奨金を狙い、かつて自分を捨てた元婚約者と親族が手のひ
らを返して擦り寄ってくる。
そしてエリーゼを守るため、冷徹な王弟ユリウス閣下が取った手段は──王宮中の扉を書き換
えて、どこを開けても自分の執務室に出るようにすること。
外交問題は起きるわ文官は失神するわ浴槽はスープまみれ。それでも閣下は「論理的帰結だ
」と涼しい顔。
やりすぎる理由を問い詰めると、届いたのは『恒久的保護契約の必要性に関する論証書』。
仮説を一つずつ立てては棄却し、最後に震えた字で書いてあったのは──
「著者は対象者を愛している。棄却する根拠を、著者は持たない」
空間を捻じ曲げる天才が、感情だけはどうにもできなかった話。