あらすじ
あらすじ
民俗記録を追っていた元恋人・志乃の遺品から、一冊の黒いノートと未整理の録音データが見つかった。
そこには、奥多摩湖に沈んだ旧集落の名と、意味の分からない一文が残されていた。
――返し場
※場所ではない
編集者の「私」は、志乃が最後に追っていたものを確かめるため奥多摩へ向かう。
移された神を祀る社、橋の向こうで名を呼ぶなという古い言い回し、供養碑の裏に残る欠けた刻線、山へ返すものと水へ沈めるものの順。
ばらばらに見えた記録はやがて、湖に沈んだ村の“場所”ではなく、“暮らしを戻す順番”を指していたと分かっていく。
音から先に村が戻る夜、主人公は呼びたい名を呼ばないまま、志乃が残したものを返しに行く。
これは心霊の証明ではなく、なかったことにするには手触りが残りすぎた記録である。
登場人物紹介
私
出版社勤めの編集者。
民俗や聞き書きを扱う仕事をしている。
物事を整理し、読める形へ整えることに慣れているが、志乃に関わることだけは順番どおりに片づけられない。
志乃
民俗記録を追っていた女性。
主人公の元恋人。
寡黙で、現場の手触りを何より重視する。
記録を世に出すことより、記録の持ち主や土地の順番を守ることを優先していた。
小○内神社の女性
湖の下になった集落から移された神々を祀る社で掃除をしている年配の女性。
よそ者へ多くを語らないが、橋の向こうで名を呼ぶなという古い言い方だけははっきり残している。
今井
奥多摩の郷土史に関わる男。地図や旧道に詳しい。
日原の女
川沿いの店先にいる年配の女性。
山へ返すものと水へ沈めるものは別だと知っている
志乃が何度も画面を見て、誰かを来させないようにしていたことを覚えている。