あらすじ
夜会の一角で、婚約者ヴィクトルは私にこう言った。
「お前は冷たい女だ。泣きもしない」
そして隣に立つ侯爵令嬢ミレーナを選び、婚約を破棄した。
悔しくないの、と笑われた。泣いてみせろ、と言われた。でも私には泣けない理由がある。幼い頃から父に叩き込まれた言葉が、私から泣き方を奪っていたから。
笑顔のまま「お幸せに」と背を向けた翌日、王都外れの公園で一人の男に声をかけられた。
「あの笑顔は、強がりですか。それとも本物ですか」
カイエン・ドレスト。公爵家次男。三年前、暴走する馬に誰も近づけなかったあの夜、笑いながら駆け寄ってきた令嬢のことをずっと覚えていた、と言う男。
やがて彼は、ヴィクトルとミレーナの婚約発表パーティーに私を連れて現れる。
事業の白紙撤回。財政難の暴露。全部まとめて、一夜で。
——ちなみに。侯爵令嬢の家の帳簿、数字が合っていなかったそうです。