あらすじ
海洋帝国アルヴェインで伯爵令嬢として生きるクリスティンは、海風宮の舞踏会で「怠け者の令嬢」として断罪寸前に追い込まれた瞬間、前世の記憶を取り戻す。前世の彼女は、日本で文房具メーカーの物流事務として、在庫と出荷を支えていた女性だった。
社交の場では居場所を失っても、物の流れを整える仕事ならやり直せる。そう考えたクリスティンは、華やかな立場を捨て、自ら海風宮の食糧庫付き書記へ降格を願い出る。
そこで彼女を待っていたのは、欠品だらけの帳簿、水漏れする貯水設備、港への補給遅延、そして誰かが意図的に作った不自然な噂と数字の空白だった。さらに、彼女には水脈が「透明な糸」として見える不思議な力が芽生え始めていた。
灯台局の若手官吏クリストフ、厳格な会計監査役ヤコブ、実務で海風宮を支える筆頭女官マギー、厨房の仲間たちと手を組み、クリスティンは食卓と航路の乱れを一つずつ立て直していく。
やがて不正は帝都の灯台補給まで食い込み、嵐の夜、後宮と港を守る大仕事へつながっていく。これは、悪役扱いされた令嬢が、誰かの帰る場所を守るため、自分の手で居場所を作り直していく物語である。