あらすじ
内装業者、河内敦。彼は一人娘の日菜子を連れ、照りつける太陽の下、県営プールへと自転車を漕ぎ出す。
水飛沫と塩素の匂い、分け合うカップラーメンの熱。
巨大な積乱雲が見守る中、そこには確かに、ありふれた親子の幸せがあった。
だが、その平穏は砂上の楼閣に過ぎない。
ラッシュガードに隠された消せぬ痣、仕事仲間の不穏な囁き。
自己嫌悪の果てに振るう暴力が、男を現実へと引き戻していく。
蝉の声が不意に止み、夏の終わりが足音を立てて近づく。
駐輪場で男を待っていたのは、逃れられぬ因果の影。
鮮烈な夏の光と、静かな絶望。
二度と戻れない「あの日」を鮮やかに描き出す、慟哭の短編。