あらすじ
初めての彼女・里香が、知らない男と抱き合っているのを見たあの日、僕の世界は一瞬で壊れた。
胸の奥がひりつき、言葉も出ない。会社を辞め、カーテンを閉め、部屋の明かりも遮った。外の光も音も拒絶して、ただ部屋にこもる日々が続いた。
逃げ込んだのは、MMO『マルス』の世界だった。アバター「サカネ」を操作している間だけ、心が少しだけ落ち着いた。
画面の向こうの自分は、弱さを見せても許される存在だったから。
そこで出会ったのが、騎士「ガレル」だった。夜遅くまで、僕の愚痴に付き合ってくれる彼の声は、どこか温かく、安心できた。ゲーム内で高価な武器を贈ってくれるたび、僕は錯覚した。まるで、自分が本当に女の子になったかのように。
ある夜、ガレルが静かに言った。「お前のこと、愛してるんだ」
罪悪感に押し潰されそうになりながらも、僕は決心した。「実は男なんだ」と打ち明けた。返ってきた言葉は、意外にも穏やかだった。「中身が君なら、それでいい。親友として会おう」
その瞬間、僕は救われた。ありのままの自分を受け入れてくれる人が、ここにいる――そう思えた。
オフ会当日。胸を高鳴らせながら待ち合わせ場所に向かう。だが、目に映ったのはガレルでも、ゲームの中の誰でもなかった。
……あの日、忘れられない顔だった。
嘘にまみれ、依存し、傷つけあった二人。けれど嘘つきな僕たちの、二度目の初恋が、静かに幕を開けた。