あらすじ
茨城県日立市。
海の見える坂の街で暮らす高校二年生・鷹取透真には、人の気持ちがほんの少しだけ“見えすぎる”癖があった。
飲み物の減る速さ。
制服の袖を直す回数。
声が半音だけ上ずる瞬間。
そんな些細な変化から、相手の無理や諦めや、言葉にしなかった好意まで拾ってしまう。
けれど透真は、それをうまく救えるわけではない。
ただ、見てしまったものを見なかったことにできないだけだ。
所属する生活記録同好会に持ち込まれるのは、校内の小さな相談ごとばかり。
なくなったノート、少しだけおかしい噂、放課後のすれ違い、言えなかった気持ちの置き場所。
そんな日々のなかで透真が気づいてしまうのは、
幼なじみの明るさの奥にある諦め、
完璧美少女の不器用な沈黙、
年上の先輩が冗談に隠した本音、
無口な後輩の静かな独占欲――
この街は広すぎない。
だから失恋しかけた気持ちは、どこへも逃げてくれない。
坂の上でも、駅前でも、海沿いの帰り道でも、
明日になればまた会ってしまう。
近すぎる街で、近づきすぎた心は、簡単には整理できない。
これは、恋に勝てない誰かの気持ちを、
ひとりの少年だけが少し早く見つけてしまう物語。
そして彼自身もまた、
“見えてしまう優しさ”と“踏み込む勇気”のあいだで揺れながら、
自分の青春に答えを探していく、
海風の街の放課後群像劇。