あらすじ
異世界に転生した俺に配られた手札は、「魔法適性ゼロ」「神の加護なし」という圧倒的な凡人枠だった。
だから俺は生き残るためだけに、泥水すする思いで「回避」と「逃走」に全振りの鍛錬を重ね、王都のしがない平騎士としてそこそこの平穏を手に入れた。この退屈で幸せな日常が、ずっと続くと思っていた。
――魔王軍の四天王が急襲し、王都が地獄に変わるまでは。
圧倒的な暴力で歴戦の騎士たちをすり潰す四天王『武王』。逃げ場のない地下通路に追い詰められた幼き王子と姫。
絶対に勝てない理不尽を前にして、俺は生存本能のすべてを投げ捨てた。
「俺の命を全部すり潰せば……数分くらいは稼げるだろう」
砕け散る剣、へし折られる腕。
それでも退かず、己の砕けた骨と血肉を『錠前』にして化け物の腕を縛り付け、俺はただの肉の壁として立ったまま絶命した。
それは名もなき凡人の、歴史書には一行たりとも乗らない無価値な死に様。……そのはずだった。
だが、俺の死闘をその目に焼き付けた者たちは狂ってしまった。
「あの方の凄惨な死に様を見た我々の前で、その程度の薄っぺらい覚悟で『勇者』を名乗るな!」
生き延びた王族は、のちに現れたチート勇者への要求ハードルを天元突破させ、一矢報いられた四天王は慢心を捨てて「全力で人間を殺す殺戮マシーン」と化してしまった。
これは、特別な力を持たないただの凡人が、意地と狂気で世界の難易度(ベリーハード)を理不尽なまでに跳ね上げて退場する、泥まみれの人間賛歌。