あらすじ
「そんな細い鉄の棒で、魔物の皮が切れるはずなかろう!」
精霊の加護を受け、優雅に「木霊の弓」を操るエルフの里。
そこで火伏 朔(ひぶせ さく)は、魔力を持たぬ「ナギ(落ちこぼれ)」として蔑まれていた。
だが、彼には誰にも知られぬ正体があった。
それは、かつて江戸で御用鍛冶を務め、一振りの折れを恥じて死んだ伝説の江戸鍛冶師の魂。
「耳が長かろうが、妖怪になろうが構わぬ。この地ならば、あの時届かなかった『至高の鋼』が焼けるかもしれん」
エルフたちが魔法で果実を採る傍ら、正継は黙々と土を舐め、砂鉄を啜り、前代未聞の「炉」を組む。
彼が打つのは、この世界に存在しない概念――「日本刀」。
「里正(さとまさ)」と名付けられたその一振りは、エルフの至宝を、騎士の盾を、そして伝説の魔竜の首を、紙のように薄く断ち切っていく。
これは、異世界に迷い込んだ偏屈な江戸職人が、その「鋭さ」だけで世界の理を切り裂き、頂点へとのぼり詰める物語。
「切れるか試せ。……話は、それからでござる」