あらすじ
三年間、壁一枚を隔てた夫婦だった。
宮廷魔導師団団長との契約結婚。
妻の仕事は毎晩、壁越しに結界へ魔力を注ぐこと。
顔を合わせず、食卓を共にせず、名前すら呼ばれない日々。
それでいいと思っていた。
私は触媒であり、道具であり、壁の模様と同じくらい透明な存在だった。
だから離婚届を書いた。
丁寧に、一文字ずつ。もう一枚、予備も用意して。
差し出した紙を、夫は破り捨てた。
「君なしでは結界が保てない」と、震える声で。
結界の話だろうか。
それとも。
三年分の沈黙の向こう側に、何があったのか。
答えを知ることが怖いのは、きっと私のほうだ。