あらすじ
『人生最後のゲーム』
嫁と出かけたはずだった
窓の外には、春の名残り
助手席には、穏やかな沈黙
――そのはずだった
目を覚ませば
そこにあったのは
名前も知らない山の匂いと
誰もいない静けさだけ
エンジンの音も
あの人の気配も
きれいに、消えていた
「……置いていかれたのか」
七十一年、生きてきて
初めて知る
“人に捨てられる重さ”
足は思うように動かない
心も、同じだ
それでも
止まれば終わると知っている
風が言う
まだ死ぬには早いと
土が言う
ここは、お前の墓じゃないと
だから私は
震える手で枝を拾い
ゆっくりと、前に進む
これはきっと
罰でも、事故でもない
誰かが始めた
“ゲーム”なのだろう
ならば――
クリアしてやる
たとえ
ゴールがどこにあるか分からなくても
たとえ
もう誰も待っていなくても
私はまだ
ここにいる
息をしている
生きている
だからこれは
終わりではない
――人生最後のゲームは
ここから始まるのだ