あらすじ
王の継承者は、必ず手にコインを握って生を享ける。
その色は、王国の未来を映す兆しとして人々に信じられていた。
魔法という、世界を蝕む呪いの力。
そして、王たちが生まれながらに手にする不思議なコイン。
そのふたつを宿す王国アノジェアは、大陸に覇を唱えてきた。
だがアノジェアには、
それら力の暴走を制御するための秘匿された学術機関があった。
その名は、禁学の塔。
通常の学問が新たな可能性を探り、光を目指すものだとすれば、
そこにあるのは、過剰な可能性を封じ、
世界を安定に導くための密やかな夜の思索――不可能証明。
リウレン・ルゼリア。
彼はかつて、己の師が示した不可能証明の余波で、
最も大切な友を失った。
交わした最後の言葉を信じて、彼はこの世界から、
ひとつの可能性を永遠に追放しようとしている。
そして、ゼル。
強大な魔法がその代償として奪うもの、
それが「未来の可能性」であると彼が知ったとき、
この世界の運命の歯車は、音もなく動き出した。
あるいは。
緋銀という稀な色のコインを手に、新たな王が生まれたあの日か。
届かぬ思いを抱えた少女が、おとぎ話の巨大な手を夢に見た夜か。
偽りの記憶に苦しむ少年が、神話の影さす王都に迷い込んだ午後か。
そう、世界は、底知れぬ悪意の持ち主のいたずらな指先に、
ずっと歪まされ続けていたのかもしれない。
それでも――
今度こそ、この世界から誰も消させはしない。
リウレンの証明が、
この幾重にも折り重なった因果の螺旋にもたらすものは何か。
ゼルが手にした神秘の時計が最後に告げるのは、
果たして誰のための時間か。
森の優しい歌に呑まれて友人が姿を消したあの時に、
胸に灯したその誓いの結末を、まだ誰も知らない。