あらすじ

派遣社員として配属された職場で、私はひとりの女性と出会った。 誰とでもすぐに距離を詰め、自然に人の懐に入り込んでいく彼女。 周りの男から「聖女」と崇められていたその姿に、何の疑いもなく、いつしか自分までも心酔していく。 そんな中、同じフロアで働く不器用で優しい年下の男性と私は少しずつ距離を縮めていく。 ぎこちないやり取り、初めてのドライブ。 穏やかな色彩の中で、確かに何かが始まっていると感じていた。 その一方で、彼女の“距離の取り方”に、僅かな違和感を覚え始める。 仕事の合間に見えた、数々の異性とのやり取り。 近すぎず、遠すぎず、それでいて確実に心に入り込む、蜜と毒が同時に練り込まれた言葉。 それは偶然ではなく、繰り返されているものだった。 同じ年という事もあり、「恋バナ」で毎日盛り上がっていた頃、突然、彼女の中で何かが切り替わる。聖女は、私から彼に関わる情報の「貢物」を利用し、裏で確実に獲物を仕留めようと動き出していたのだった。 「聖女」の巧妙な手口と罠に私達は易々とかかり、見事に彼女の毒香に惑わされ、何も進展することはなかった。 そして或る日の夜、私は決定的な事実を目の当たりにする。 彼女は——私の知らないところで、彼との関係を築いていたのだ。 全ての点と点が繋がった時、私は彼女に問い詰めるも、目に涙を溜めながらあっさり真実を告げられる。そして、その時も、それ後も何も無かったかのような異様な距離感で、聖女の毒香に惑わされ続ける情けない私。 呪いとも取れる聖女から私への「貢物」の返礼品の数々。身の毛もよだつ仕打ちの中で、ようやく理解する。 彼女は、人との距離を選んでいるのだと。 それらは誰かと何かを築くためではなく、 ただ、自分が選ばれ続けるための距離。そして選ばれた先の支配と悦楽を吟味し、次は選び返し、手に入れ、自分の聖域で飼い殺しを目論む残酷な「聖女」だったのだ…。 ——これは、数々の戦慄と共に、地獄の二人の門出に立ち会い、その距離の外側に立つまでの私の記録である。

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カクヨム
カクヨム2026/03/22
  • 現在の作品聖女の距離——贄物