あらすじ

那珂川ランドの朝は、いつも白粉の匂いから始まる。 諸岡は鏡の前で、毎朝同じ顔を塗り潰す。 元メリーゴーランド担当。穏やかな回転と馬の背中が恋しいまま、 社員登用を機に突如、大道芸部のマネージャー兼“那珂川ピエロ”へ異動させられた。 陽気で、愉快で、決して笑顔を崩さない。 それがピエロの掟だ。 失敗しても、客の冷めた視線に晒されても、どうにかして笑いに変える。 それが彼の仕事。 葛西先輩の厳しい理想、新人たちの未熟な成長、 休憩室の疲れた空気、バルーンが割れる音。 すべてが彼を少しずつ削っていく。 それでも、客席から上がる本物の笑い声が響いた瞬間だけ、 仮面の下で、ほんの少し息ができる。 メイクを落とすたび、素顔に戻る。 でも次の出番で、また白を塗る。 「自分が一番嫌いじゃないこと」なんて、 探しているうちに、いつしか見失っていたのかもしれない。 テーマパークのキラキラした表舞台の裏で、 ピエロは今日も静かに、仮面を被り続ける。 ――笑顔の向こう側に、何があるのか。 まだ、誰も知らない。

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カクヨム
カクヨム2026/03/22
  • 現在の作品那珂川ピエロ