あらすじ
篠原誠、三十五歳。派遣社員として五年間、同じ部署で働き続ける彼には、誰にも言えない誇りがあった。それは、同じ会社で正社員として働く妻・沙織の存在だ。大学時代からの恋人で、彼女だけが「派遣だから」と誠を見下さなかった。唯一の理解者だった。
しかしある日、誠は知ってしまう。沙織が部署の上司・安藤と不倫関係にあることを。安藤は誠のことを「派遣のクズ」と嘲笑い、沙織もまた「あなたみたいに安定しない男とは、もう無理なの」と冷たく告げる。誠が必死に残業を重ね、派遣切りを免れるために働いていたその間、二人は社内の資料室で密会を重ねていたのだ。
全てを奪われ、絶望する誠。だが彼には、誰も知らない「武器」があった。五年間、派遣社員として会社のあらゆる書類を処理してきた彼は、安藤が関わる不正経理の証拠、そして沙織が社外秘データを流出させた事実を、全て押さえていた。それは、社内報にも載る「優良社員」の仮面を剥がす、致命傷になり得るものだった。
誠は静かに動き出す。まず派遣会社に契約解除を申し出て、自ら「派遣切り」される。そして労働審判を起こし、不当解雇とパワハラの事実を公にする。安藤と沙織は会社から事情聴取を受け、徐々に追い詰められていく。さらに誠は、安藤が関与する不正経理の証拠を競合他社にリーク。安藤は業界から干され、沙織はデータ流出の責任を問われ、正社員の座も失う。
全てが終わった日、誠は派遣会社の新しいオフィスで、社員として働き始めていた。彼が集めた証拠と労働審判の結果は、派遣会社を変革するきっかけとなり、誠はその功績で正社員登用されたのだ。
「派遣だから」と奪われた全てを、彼は「派遣だから」こそ手に入れた証拠で奪い返す。陰鬱なまでの復讐劇の果てに、誠が掴む爽快な結末とは――。