あらすじ
終電を逃した金曜日の深夜零時十三分。二十四歳の私は、がらんどうの駅構内でストリートピアノを見つけた。一年前、元婚約者の言葉に従って音大受験を諦め、夢も感情も殺して生きてきた私。なのに指は勝手に動き出し、錆びついた旋律が深夜の駅に響き渡る。「その音、殺すには惜しい」——涙で濡れた演奏を聴いていたのは、終電を同じく逃したという無表情な男だった。音に「餓え」があると言う彼は、いったい何者なのか。諦めたはずの夢と、死んだはずの私の音が、深夜の駅で息を吹き返す。これは、自分で自分を殺した女が、もう一度生き直すまでの物語。終電の向こう側で始まる、再生と恋の音楽譚。