あらすじ
地方から上京し、周囲の期待に応えるべく「完璧な優等生」を演じ続ける高校生・日野明。重圧から深刻な不眠症に陥った彼を支えていたのは、大人気ASMR配信者・鈴揺シロの甘い囁きだった。しかし、彼女の突然の引退で心の支えを失った明は、ついに限界を迎え保健室で倒れてしまう。
薄れゆく意識の中、耳元を撫でた「おやすみ」の吐息。それは紛れもなく最愛の推しの声だった。目を開けた先にいたのは、クラスで孤立する物静かな美少女・白石風宇。彼女こそ、厳格な親に活動を禁じられ、居場所を奪われた鈴揺シロ本人だったのだ。
「私に勉強を教えて。代わりに私が、あなたを眠らせてあげる」
親の干渉を断ち切りたい風宇と、安眠を渇望する明。二人は『試験指導』と『安眠ASMR提供』を対価とする、秘密の共犯関係を結ぶ。明の部屋という密室で繰り広げられるのは、仮想を超えた“リアルASMR”だった。膝枕での耳かき、鼓膜を震わせる吐息、ゼロ距離の囁き。普段の孤高な姿と、夜に見せる蠱惑的な二つの顔に翻弄されながら、明の心は次第に溶かされていく。
だが、惹かれるほどに明は「自分はリスナーの代替品ではないか」という疑念に苛まれる。空っぽな自分に絶望した明は彼女を突き放そうとするが、風宇は涙ながらに隠された真実を告げた。かつて配信者として孤独に沈んでいた彼女を、熱心な言葉で救い続けた最古参のリスナー。それこそが、明の裏アカウントだったのだ。
「私が救っていたんじゃない。私たちが、互いを救っていたの」
推しとファンでも、契約関係でもない。欠けた心を補い合う“対等なパートナー”として結ばれた二人は、やがて親の束縛を打ち破る。
数年後、数多の困難を乗り越え二人は学生結婚。明は教師として、風宇はプロの表現者として歩み出す。かつてヘッドフォン越しにしか感じられなかった温もりは、今やかけがえのない「家族」の風景となり、彼らの夜を永遠に優しく包み込んでいく。