あらすじ
この作品は、王位継承をめぐる陰謀と沈黙の倫理を描いた純文学的物語である。第一王子が毒殺され、周囲の疑いは第二王子へと向かうが、ブルック公爵家に仕えるメイド・エレノアの証言により、その疑いは退けられる。しかし実際には、彼女は第二王子が毒を盛る場面を目撃していた。彼女は虚偽を語ったのではなく、「語るべきことを語らなかった」のである。
第一王子は武勇に優れた覇権志向の人物であり、戦による国家拡張を志していた。一方、第二王子は繊細で人の心に寄り添う統治を志向していた。エレノアはこの対照を見据え、流血を避けるために沈黙を選ぶ。だが、彼女の主であるブルック公爵はその意図を理解せず、むしろ「第二王子を犯人とする方向に証言すべきだった」として、秩序への不忠を理由に彼女を解任する。
帰郷の途上、エレノアは変装した第二王子と遭遇する。彼に理由を問われ、彼女はただ国の平安を願ったにすぎないと語る。第二王子は彼女を咎めることなく、その言葉を受け止める。やがて二人は別れ、秋の深まりとともに物語は静かに閉じる。