あらすじ
かつて世界を股にかけ、数百億円のプロジェクトを動かしたエリートエンジニアの「僕」。しかし、双極性障害の発症により、輝かしいキャリアは音を立てて崩壊する。精神病院の閉鎖病棟、そして復職後の「流刑地」……。辿り着いたのは、3本の矢と呼ばれる無慈悲で凶暴な元ヤンキーによる3頭政治。油まみれのジジイたちの陰湿ないじめ。京都の片隅の最果ての古い工場だった。
ボロ雑巾のような日々。自尊心をブラジャーで締め付け、カズオ・イシグロの原書の行間に逃げ込む「僕」の前に、その少女は現れた。
桜咲く4月、京都駅の大阪行きのホームだった。
ショートボブの髪に天使の輪を浮かべ、アイロンのきいた真っ白なシャツを纏った「座敷わらし」、咲く。
サラリーマンたちが二度見し、世界中の美を知る僕が「事実上、世界一」と断じた、圧倒的な無垢。
彼女は、泥沼の底で死にかけていた僕に、「ニコっ」と微笑んだ。
後ろ暗さの塊である僕は、その眩しさに耐えかね、彼女を無視し続ける。だが、無視すればするほど、彼女という「規律」は僕の魂を侵食していく。
これは、一切の救いがない「転落」の中で、ただ一人の少女を「聖域」として仰ぎ見、自分自身を浄化しようともがいた、ある男の、あまりに孤独で、あまりに美しい「拝跪(はいき)の記録」である。