あらすじ

妖怪譚 ―「あんからおん」 和光は、いつのまにか夢の底へと沈んでいた。 それは眠りというより、意識がどこか別の層へ滑り落ちていくような感覚だった。足元の感触はなく、ただ、音だけがあった。 「……ん」 どこからともなく響く、かすかな終止の音。 その音に導かれるようにして、和光は気がつくと、長く続く回廊の中に立っていた。 回廊は薄暗く、壁は黒とも白ともつかない曖昧な色でできている。だが奇妙なことに、そこには無数の「声」が漂っていた。 「あん……いん……うん……えん……おん……」 終わりの音だけが、形を持たずに浮かび上がる。 いや――違う。 それは、やがて形を持ち始めた。 最初に現れたのは、「あん」だった。 それは柔らかな布のような影をまとい、和光の前に静かに降り立った。姿は人に似ているが、輪郭は曖昧で、まるで安心と不安の境目そのもののようだった。 「あん」は、何も言わずに和光の肩に触れた。 その瞬間、和光の心に、深い静けさが流れ込む。 懐かしいような、温かいような感覚。 だが次の瞬間、その静けさは裏返った。 胸の奥に、理由のない不安が広がる。 「……これが、お前の本当の顔か」 和光がそう呟くと、「あん」はかすかに揺れた。 安らぎは、常に不安と隣り合わせにある。 そのことを示すように、「あん」は霧のように消えた。

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カクヨム
カクヨム2026/03/20
  • 現在の作品田主丸妖怪小説「かっぱどん」