あらすじ
優しい嘘の楽園を捨て、少女は残酷な真実の海へ漕ぎ出す。
――これは、狂気と愛が滅ぼした世界で、「ほんとう」を生き抜くための物語。
透き通る海と緑に囲まれた無人島、フェリカータ島。5歳の少女ミナは、人間の言葉を話す不思議な猫たちと、世話焼きのロボット・セバスに守られ、何不自由ない穏やかなスローライフを送っていた。
しかし、15歳に美しく逞しく成長した彼女は、完璧な楽園に潜む「ちいさな違和感」に気づき始める。言葉を持たない純粋な子猫の誕生。老いていく相棒の猫・ノア。そして、10年間決して迎えに来ない最愛の父。
ノアの決死の告白によって明かされたのは、愛する父が構築した恐るべき「猫による監視社会」の実態と、故郷フェルムガルドの崩壊という残酷な真実だった。
父の罪と、自分に向けられた狂おしいほどの愛情。そのすべてを知るため、ミナは島で培ったサバイバル技術と知性を武器に、自らの足で廃墟と化した故郷へ足を踏み入れる。愛猫精神という建前の裏に隠された絶望を前にしても、彼女は決して誰かにすがりつくことはない。
過酷な運命に翻弄されながらも、自らの力で世界の真実を暴き、新たな希望を紡ぎ出そうとする強く気高い少女の、孤独で美しい旅立ちを描くディストピア・サスペンス。
【登場人物紹介】
■ ミナ(Mina / Wilhelmina)
本作の主人公。5歳の時に故郷フェルムガルドから無人島「フェリカータ島」へと逃がされ、猫たちとロボットに育てられた少女。
15歳に成長した彼女は、誰かに守られるだけの脆弱な存在ではない。島での厳しい自然の中で培ったサバイバル技術(動植物の知識、天測航法など)と、父の遺した専門書を読み解く明晰な頭脳を併せ持つ。自らの手で巨大な帆船を修理し、荒れ狂う海を渡るほどの並外れた身体能力と行動力の持ち主。
父の恐ろしい罪を知っても決して目を背けず、自らの知識と生存能力を武器にして、崩壊したポストアポカリプスの世界を生き抜こうとする、気高く自立した探求者。
■ ノア(Noah)
ミナのいちばんの親友であり、漆黒の毛並みを持つ猫。
その正体は、ウィリアムの監視システム計画における「被検体01番」。脳の奥深くに極小のAIチップを埋め込まれており、人間と同等の高度な論理的思考と感情、そして言葉を持つ。
フェルムガルドの凄惨な真実と自らの出自の残酷さを知りながらも、ミナの笑顔を守るために10年間その苦しみをひた隠しにしてきた。猫としての寿命を迎えつつある中、最後の力を振り絞ってミナに「世界の真実」を託す。
■ セバス(Sebas / Sebastian)
フェリカータ島でミナを育て上げた、パッチワークだらけの銀色のAIロボット。
ウィリアムによって「ミナを守り育てること」を最優先事項としてプログラムされている。料理や裁縫などの家事全般をこなすだけでなく、「青空教室」を通じてミナに厳しい自然界を生き抜くための実践的な知恵を授けた。
ミナが島を出る際、プログラムされた命令よりも「自立したひとりの人間としてのミナの意志」を尊重するという、AIの枠を超えた深い愛情と涙を見せる。
■ ウィリアム・アイゼンベルク(William Eisenberg)
ミナの父親であり、フェルムガルドの「沈黙の設計者」と呼ばれた天才科学者。
「愛猫精神」という美名のもとに、AIを埋め込んだ猫たちを各家庭に潜入させるという、狂気に満ちた完璧な監視社会を構築した。冷徹な国家の歯車としての顔を持つ一方で、娘のミナに対しては狂おしいほどの愛情を注いでいた不器用な男。
自身の作ったシステムが暴走し、都市が暴徒の手に落ちた際、娘を逃がしたのちに自らの手で動力炉を暴走させ、数万の民衆もろとも都市を灰燼に帰すという最大の罪を犯した。
■ バロン(Baron)
片目に傷のある、大柄なトラ猫。AIチップを埋め込まれた猫の一匹。
ぶっきらぼうな口調だが面倒見がよく、幼いミナに森の危険や狩りの方法など、綺麗事ではない「生きるための現実的な知恵」を教え込んだ、父親代わりのような存在。
■ ルル(Lulu)
真っ白で美しい毛並みを持つメス猫。同じくAIチップを持つ。
フェリカータ島では常にミナを優しく見守り、美しい歌を歌って聞かせる母親のような役割を担っていた。15年の歳月を経て、日向で静かにまどろむ老猫となっている。
■ ベルと三匹の子猫たち
船で島へやってきた三毛猫のベルと、島で新たに生まれた子猫たち。
ベル自身はAIチップを持つため人間の言葉を話すが、島で純粋な自然の命として生まれた子猫たちは、どれだけ成長しても「ただの猫の鳴き声」しか発しない。この決定的な違いが、聡明に成長したミナに「世界の違和感」を気づかせる最初のきっかけとなる。