あらすじ
四十二歳、子どものいない主婦・由紀子。
うつ病療養中の彼女は、雨の日になると頭痛や倦怠感に苦しみながら、淡々と日常を過ごしていた。
精神病院の受診日。
不安定な天気、過敏な音、他人の気配――それだけで心は削られていく。
帰り道、病院裏の川の淵で彼女は「それ」と遭遇する。
水死体のような質感、異様な力、そして足首を掴む冷たい手。
――河童。
引きずり込まれるはずだったその瞬間、彼女の口から出たのは「もう無理」という、あまりにも静かな本音だった。
すると怪異は、彼女を連れていかなかった。
恐怖よりも強く残るのは、「なぜ自分は選ばれなかったのか」という感覚。
満たされない日常と、奪うはずの存在。
そのすれ違いの中で見える、小さな“生きている理由”の物語。