あらすじ
一通り面接が終了して、私が退席しようと立ち上がった時、
「前職の“芸能”っていうのは、どういうことをされていたんですか?」
と尋ねられた。
ただ履歴書に項目があったから書いておいただけで、面談の中では全く触れられなかった。
雑談として消費されようとしているそれを、純粋に私は、この場でどこからどんなふうに説明していいか、咄嗟に判断ができなかった。
えっと、
「武道館ってご存知ですか?」
東京にいたときは、こんな質問をしたことがなかった。
“武道館”という言葉が、全てを説明してくれたから。
ずいぶん遠くに来たもんだと、なんだかちょっと笑ってしまった。
よく考えてみればわかると思うんですけど、
アイドルの実績って履歴書にはなんにも書けないんですよね。
こんなに広いステージをお客さんでいっぱいにしたとか
こんなイベントに出演したとか
CDをこれだけ売ったとか
動画が何回再生されたとか
フォロワーが何人いるとか
取得した資格もないし、活かせるスキルもない。
それから、そんなアイドルのその後の人生って、ご存知ですか?
たぶん、知らないですよね。
知る由がないですから。
このエッセイは、履歴書に残らないアイドルの記憶と、史実にならないその後の記録。