あらすじ
三日間やまない雨の夜、出版社で働く美月のもとに届いた差出人不明のメッセージ。
――『あなたの髪を、返しに来てください』。
導かれるように辿り着いたのは、商店街のはずれに佇む古い床屋「加藤理容」。
店主の静かな声に促され、美月は胸下まで伸ばした黒髪を切り落としていく。
ロングヘアが束になって床に落ち、ボブへ、ショートへ、スポーツ刈りへ――鏡の中で輪郭が変わるたび、背後には“長い髪の女”の影が濃くなる。
「あなたの髪の中に、もう一人いる」
バリカンの振動、散り積もる短い毛、剃刀が頭皮を滑る冷たい音。
ついにスキンヘッドになったとき、床にあったはずの黒い山は消え、代わりに美月の記憶の底が割れていく。
髪が結ぶのは、過去と罪。
そして、返すべきものは――髪だけなのか。
床屋の鈴が鳴るたび、あなたの「持ち物」だったはずの身体が、少しずつ他人のものになっていく。
静かな恐怖と、皮膚の感覚まで迫る断髪のホラー。